▼目次①アートとデザインの偶然性という違い②D2Cブランドで検証した、伝播性のある商品設計。③アーティストを殺してしまった。最初で最大の過ち。④先入観を最小限に抑え、アパレル商品の余白設計をする。公開日:2024/05/06読了目安:5分デザインとアートの偶然性という違い【堀川翔(ほりかわしょう)】兵庫県神戸市出身。1998年生まれ。慶應義塾大学卒業後、ディップ株式会社に21新卒として入社。1年目から新規事業やバイトル新商品開発のプロジェクトリーダーを複数推進し、現在は商品開発と兼務で新卒採用のインターン生マネジメントも行う。社外ではアパレルブランド経営,大阪府門真市のコンサル,兵庫県神戸市のカメラマンなどマルチなビジネスクリエイターとして活動。デザインとアートの違いを教えてください!まず大前提として、アートとデザインの明確な違いというものは定義されていません。Googleで検索しても、アーティストに聞いても、毎回答えは異なると思います。その上で、僕が考えるデザインとアートの明確な違いは、余白のある自己表現かどうかです。デザインの特徴ってありますか?デザインはゴールを事前に設計しています。デザイナーは何をどうやって伝えるのかを事前に考え、意図したゴールを自分自身で計画的に決めた上で創作を進めていくことになります。表現するアウトプットよりも先に伝えたいことが念頭に来るため、ビジネスのようにイシューや狙いから出発することが多く、その上でどういった手段を選ぶのか意思決定することが特徴だと思っています。つまり、デザインは問いかけではなく課題解決の役目を果たしているということです。アートの特徴も知りたいです!一方で、アートはゴールを事前に設計していないことが多く、お客さんやユーザーにゴール自体を託しています。そのため、受け手がどのような終着点を迎えるかは事前にはわからず、表現物の奥で何を感じるかは細かく設計し過ぎずに解釈の余白を用意してあります。伝えたいことよりも表現者であるアーティストの衝動的な疑問や感情が念頭に来るため、ビジネスとは違って過程は偶然性や社会からはみ出た表現が多く、その上でどう感じるのか投げかけることが特徴だと思います。そこに課題解決という文脈は存在せず、アートは社会風刺のような問いかけ、訴えかけの役目を果たしているということです。D2Cブランドで検証した、伝播性のある商品設計。堀川さんはアートをどのタイミングで学んだのですか?僕自身は、コロナ禍の大学4年生の時(2020年8月1日)にD2Cのアパレルブランドを立ち上げました。実際に第2弾のコラボ作品として、ファッションとアートを掛け合わせるという挑戦を仕掛けてみました。そこで商品企画、販売を通してアートを実体験で学ぶ機会はありました。どのようなアート作品を作りましたか?芸術系の専門大学に通っている学生さんとたまたまご縁があり、自分のアパレルブランドの新商品を作る際にコラボしてもらいました。服にアート作品を投影するというシンプルな掛け算で挑むことにしたんです。服にクリエイターの想いが交わると、商品の価値指標が機能やデザイン性の枠を超え、服に本来存在していない価値判断になることで商品価値自体が上がるのではないかと仮説設定しました。その延長で、イラストがより際立つようにボディーはシンプルな白ロンティーにして、アーティストが描いたイラストを背中のバックに入れ込み、アートとファッションが入り混じるような商品を作りました。今でこそアーティストとのコラボ作品や想いを語るビジネスが増えたような気がしますが、当時のD2Cブランドにおける市場はこの戦い方をしている人が周囲にあまりいなかったので、時代を先取る仮説検証になればいいなと思って実験販売してみました。実際に仮説は当たり、普段より金額は上げたものの周囲の人は躊躇なく購入をしてくれました。実際に知人で商品を買ってくれた人からは買う前から「届くのが楽しみ」「コンセプトと想いが素敵」「めちゃくちゃ気に入ってる」というコメントを多くもらい、他の通常販売の服とは違う熱量・空気感があったことを今でも覚えています。また、このアパレルブランドは最初知人に対してのリーチを主としていたのですが、この想いのある商品展開をした結果、知人が着ていた服やSNSに上げた投稿を見て更に購入希望が何件か来ました。実際に服のデザインだけではなく、想いやイラスト自体が熱をもった状態で伝播するような作品だったからこそ、知り合いという範囲の壁を超えられたと振り返っています。アーティストを殺してしまった。最初で最大の過ち。アートを掛け合わせることで、普段より商品の販売数も増えて大成功ですね!いえ、実は大成功でもないんです。アート✖️ファッションは一見上手く成功したように思いますが、僕はとても大きな過ちを犯していました。それは、アートを理解していなかったことでアーティストを殺してしまったことです。このロンTのイラストを描いて下さったアーティストに対して、「今回のイラストではこういうことを伝えたい!」と最初から明確に狙いを伝えた上で制作を進めてもらいました。ただ、冒頭にお伝えした通り、アートとは表現者の感情や欲を注ぎ込むことであり、かつ伝えたいことを具体的に絞り込んで創作するべきではなかったと思います。自分がアーティストの制作物に対して大きく口出ししてしまったことでアーティストを殺してしまったのです。言わばアート作品ではなくデザインに近い商品だったのだと思います。また、イラストの意味や制作背景を明確かつ丁寧にSNSで事前発信してしまいました。当時からすると、ありのまま伝えることが僕流のやり方ではあったのですが、それはあくまで アートではなくデザインだったと思っています。もちろん、デザインすること自体が良くないという話ではなく、アーティストにアート作品を作ってもらうという前提・目的であれば、 そもそも僕は細かい指示をするべきではなかった。アーティストが思うがままに描いて頂くことが1番理想的だったのかなと思います。先入観を最小限に抑え、アパレル商品の余白設計をする。今振り返って、改善できるようなポイントは思いつきますか?商品やサービスをしっかりと伝えていき、価値の変化をさせていくことは当時の時代の潮流だったので、そこにピンを打とうとしていたことは間違いないです。一方で、ユーザーが自ら何を思ってどう考えるのかの余白を先に提供することなく、先に伝えてしまったことはアートを入れ込む商品設計としては罪だったかもしれません。先に想いを伝えてしまうと、自然と先入観や過去の固定概念がお客さんに伝わってしまうことがあります。まずは、商品の周囲を纏う「どう感じるのか・どう考えるのか」という偶然的な余白を設計しておき、伝えたいことやメッセージはその後に伝えることもできたと思います。時間軸をズラしていくことで、「買った10日後にイラストの想いをお伝えします」とか、「 販売した1か月後にアーティストと制作意図をインスタライブにて公表します」とかやり方はいくらでもあった気がしていて、余白に配慮した商品設計を僕自身が当時できていればもう少し面白かったのかなと。もちろん、事前に想いや詳細を伝えないことで販売数が減ってしまったりとか、実際に当時買ってくれた人が買わないという意思決定をしていた可能性もありますが、あくまでアーティストとのコラボとして勝負するのであれば違う選択肢もあったなと振り返っています。アートとデザインの線引きは人それぞれですが、あくまで作り手としてデザインとアートの両側面に触れてみた身としては、偶然性をもたらすのかどうかを制作時にブラさないことが大切だと思いました。